大阪高等裁判所 平成11年(ラ)477号 決定 1999年7月15日
抗告人
X
右代理人弁護士
西畑肇
相手方
株式会社ソウル銀行
右代表者代表理事
A
日本における代表者
B
右代理人弁護士
北林博
玉城辰夫
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第一本件抗告の趣旨及び理由
別紙「保全抗告の申立書」記載のとおりである。
第二事案の概要
原決定「第二 事案の概要」(原決定二頁一〇行目から同五頁三行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も、本件保全取消申立は理由がなく、却下すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 被保全権利についての勝訴判決を債務名義として仮差押えの目的不動産に対し、強制競売手続(本執行)が開始された場合、それによって、当然に仮差押執行の効力が消滅するわけではなく、本執行の効力と併存すると解するのが相当である。なぜなら、仮差押えは、被保全権利の満足を目的として、対象物を仮定的、暫定的に差し押さえる制度であるところ、本執行が開始されただけでは、被保全権利が満足されるかどうか未確定であり、保全の目的は達成されていないからである。この解釈は、本執行の登記をする際に職権で仮差押えの登記を抹消する取扱をしていない現在の執行実務にも沿うものである。
2 本執行が無剰余を理由に取り消された場合にも、保全の目的は達成されていないから、将来的に被保全権利が満足される可能性が残されている限り、仮差押執行の効力は存在しているというべきである。そして、被保全権利が満足される可能性は、それが将来の経済情勢等予測困難な事情に左右されることが多いことに鑑みれば、抽象的な可能性をもって足りると解するのが相当である。一件記録によれば、本件不動産は、現時点では被保全権利の満足を見込むことは困難といわざるを得ないが、本件不動産の所在、種類、優先債権等からすれば、将来被保全権利が満足される抽象的な可能性はなお残っていると認められる(よって、本件申立時において、本件仮差押執行の効力は存在しているから、本件申立は適法である。)。
3 右のとおり、本執行が無剰余取消になったとはいえ、将来的に被保全権利が満足される可能性が残されている以上、仮差押えを継続する必要性は一概には否定できず、本執行が無剰余取消となったことのみから直ちに保全の必要性が消滅したものと判断することはできない。他にも、保全の必要性が消滅したと解すべき事情の変更は認められない。
4 なお、抗告人は、事情変更による保全取消をせず、不確定かつ長期間にわたり実質的に抗告人の財産権の帰属変更を禁止することは、抗告人に著しい不利益を与えるもので極めて不合理であると主張する。しかし、本件で保全取消を認めた場合、抗告人は、少なくとも相手方に対する関係では自由に本件不動産を処分できることになり、かえって相手方に不当に不利益を及ぼすことになるから、右主張は失当である。
二 以上によれば、抗告人の本件保全取消の申立を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がない。よって、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 坂倉充信)
<以下省略>